高校の歴史教科書、用語精選案が提起される

 高校や大学で歴史教育に携わる教員らで作る「高大連携歴史教育研究会」が2017年11月、高校歴史教科書に記載されている用語が多すぎるとして、教科書で取り上げる用語の精選案を発表した。

 大学受験の激化に伴い、「教科書に掲載されていない内容が大学入試で出題される。それを踏まえた教科書会社側が教科書改訂の際にその内容を教科書に盛り込む」の繰り返しが起き、高校での歴史教育が膨大な用語の暗記一辺倒になっていた。現行の教科書では、重要とされる歴史用語は、1950年代の教科書の3倍に膨れ上がっているという。

 この背景を踏まえ、歴史の流れを把握し考えさせられるようにするためには教科書の内容を精選すべきとする提言をまとめたものである。

「教科書本文に載せ、入試でも知識として問う基礎用語」として、日本史1664語と世界史1643語を選択したと発表し、現行の各科目3500語程度から半減することになる。

 精選案の提起は教科書会社などに対しておこない、次回教科書改訂時の参考にしてもらいたいとしている。

マスコミでも大きく取り上げられ議論が起きる

 この精選案がマスコミで報道されると、小説やドラマなどの媒体を通じて国民的に知られている「坂本龍馬」「吉田松陰」「大岡忠相」「武田信玄」「上杉謙信」などの人物が精選の対象にされているとして、これらの人物が教科書から外される可能性があるとして、論議が沸き起こっている。

 尾﨑正直高知県知事は2017年12月1日の記者会見で、土佐藩(現在の高知県)出身でもある坂本龍馬が歴史用語から外れると報道されたことを受け、「幕末維新期に日本を大きく動かす仕事をした。歴史的役割を鑑みて残してもらいたい」「最初に歴史に興味を抱かせた人物は坂本龍馬という人は多い。より手厚く取り上げて、歴史が面白いと思う人を増やしていくことも一つの考え方ではないか」などと要望する発言をおこなっている。

 個別の人物や事象について歴史の流れの中でどう評価するかという問題と、全体として歴史用語が大量に詰め込まれることで「流れ」を追えず用語暗記を余儀なくさせられざるをえない学校現場や大学受験制度の改善の問題と、異なる次元の問題が利害対立しているような形になっている。

 個別の人物や事象についてはていねいに評価しながらも、高校の授業や大学受験を見据えると、具体的に何を取捨選択するかという選定内容はともかく、どこかで精選を図っていくこと自体は必要ではないかとはいえる。

どさくさに紛れて出てきた『産経新聞』

 論議が起きている最中の2017年12月3日、『産経新聞』がどさくさに紛れて、精選におかしな難癖をつける記事『高校歴史用語に「従軍慰安婦」 教科書向け精選案「南京大虐殺」も』を出してきた。

 坂本龍馬などの人物が外れる一方、「従軍慰安婦」「南京大虐殺」が残されるべき用語に選ばれているとして難癖をつけている。

 「従軍慰安婦」については『軍による「強制連行」の誤解を与えかねない』、「南京大虐殺」については『存否などで論争のある』と、特定の政治的プロパガンダに沿った一方的な解説をつけている。

 そして記事では、「教科書事情に詳しい八木秀次麗澤大教授」の「”特定の思想が反映されないよう、より多くの異なる立場の人々の判断を仰ぐことが重要だ”」とするコメントを紹介している。

 八木秀次氏の紹介が「教科書事情に詳しい」となっているが、この人物が何者かということを考えれば、産経の狙いが見えてくる。八木氏は日本教育再生機構理事長である。

 教科書内容精選に「特定の思想の反映」と印象づけるような難癖をつけ、自分たちこそが中立かのように振る舞いながら、実際は自分たちこそが「特定の思想の反映」をねらっているというものである。過去に産経や、育鵬社教科書・日本教育再生機構系勢力などがおこなってきた手口とも共通している。

 産経や日本教育再生機構系の勢力が口を出してきたことで、彼らがおかしなことをねらっているのではないかという不安もある。学習用語の精選については、政治的プロパガンダで教育をゆがめるのではなく、高校生の学習の観点からていねいに考えていかなければならない。