研究論文への恫喝訴訟、二審も名誉毀損認めず

 投資ファンドの実態について、ファンド自身が公表した資料を元に分析・研究した学術論文を「名誉毀損」として、関係企業の経営者らが研究者を提訴した訴訟で、東京高裁は11月12日、論文は真実だとして請求を棄却した。一方で、提訴自体が違法なスラップ訴訟とした大学教授側の反訴も棄却した。

 この問題は、明治大学の野中郁江教授が、雑誌『経済』(新日本出版社)に発表した論文に対して、昭和ホールディングスとその経営者らが、5500万円の損害賠償を求めたものである。

 判決では論文について真実と認定した。また、野中教授が東京都労働委員会に提出した鑑定書が経営者の社会的評価を低下させたと主張したものの、判決では「判断するまでもなく不法行為は成立しない」と厳しく結論づけた。

 この問題は、関係者の個人的な問題にはとどまらない。表現の自由や言論の自由に関わる重大なものである。意に沿わない言論に対して、裁判制度を悪用して脅しをかけて口封じを図ろうとした、スラップ訴訟そのものである。

 スラップ(SLAPP)とは、英語の「strategic lawsuit against public participation」(直訳では「対公共関係戦略的法務」)の頭文字をとったもので、威圧訴訟や恫喝訴訟というべきものである。相手と比較して相対的に権力や経済力がある者が、裁判制度を悪用して、自分より弱い立場とみなした個人の足元を見るような形で嫌がらせをおこない、自分にとって気に入らない言論を抹殺しようと恫喝を図るものである。

 スラップ訴訟、ないしはそれに類する恫喝での言論封じを図る動きは、過去にも各分野で起きている。

 労働問題の研究者がブラック企業について企業の実名を挙げずに実態を公表したところ、自分のことを書かれたとみなしたユニクロが研究者に対して「警告文」を送付したこともあった。

 産婦人科医が診療中にわいせつ行為をしたと疑われ、当該医師が患者の顔写真と性器写真を撮影して並べてカルテに貼りながら「性器写真は症例写真。顔写真は患者識別」とした医師の主張を「有罪にできるまでの証拠固めはできなかった」と判断して、「その主張通りだとしても配慮が必要」と指摘した上で「無罪」判決となった事件があった。裁判経過を報じた新聞記事の内容に沿ってブログを書いた人がいたが、新聞記事や裁判の判決は全くスルーしてブログ主を「名誉毀損」として訴えた訴訟もあった。

 2005年に発生した長野県丸子実業高校のいじめ自殺事件では、生徒は所属していたバレーボール部でのいじめを苦にして自殺したとされ、加害者とされた生徒もいじめを認めて処分されている。しかし加害者や顧問教諭を含めたバレーボール部の関係者が「自殺した生徒の母親がいじめをでっちあげたせいで部活動が妨害され、精神的苦痛を受けた」などとして母親を逆提訴する事態となった。

 埼玉県の小学校では2011年、「児童間のトラブルに対して、クラスの児童に多数決をとってどっちが悪いかを決め、片方の児童を一方的に吊るし上げる」といういじめまがいの不適切指導をおこなった担任教師に対して保護者が抗議すると、教師は逆に「モンスターペアレントからの嫌がらせで精神的苦痛を受けた」と主張して保護者を提訴する事件が起きている。

 また提訴にまでは至らなくても、法的にも常識的にもおかしいような一方的な主張で、自分たちを「人権侵害の被害者」と位置づけて騒いで、都合の悪い言論を封殺しようとする例もよくみられるようになっている。

 京都教育大学体育科の集団暴行事件(2009年)や和歌山大学大学祭実行委員会に所属していた学生が実行委員会の同級生にいじめ・暴行を繰り返した事件(2005年)の加害者側関係者が、事件について触れた新聞記事の内容に沿って事件を紹介したり感想を書いたブログに対して、新聞記事の内容は事実であり加害者関係者も否定できない内容にもかかわらず、一方的にねじ曲げた「事実関係」をでっちあげて、その「事実関係」を元に、目についたブログのプロバイダを片っ端から恫喝して、意に沿わないブログを消させようとした例が確認されている。この2事件については、多数の被害者の方がネット上で被害を訴えている。当ブログ自身も嫌がらせや恫喝の被害にあった。

 千葉県浦安市立小学校の養護学級担任教諭が2003年、教え子の知的障害児に性的虐待をおこなった「浦安事件」では、加害者(刑事訴訟では一度無罪になったものの、犯行を全面的に認定する判決が確定し、被害者に損害賠償金を支払う)は一度「無罪」になったことを悪用して「報道被害の被害者」面して、支援者が新聞社に殴りこみをかけていることが確認されている。当該新聞社は「検証記事」として、この人物が加害行為をおこなったことに踏み込む記事を出して失敗に終わっている。また当ブログも当該案件について新聞記事を元に書いたところ、加害者関係者であることが強く推測される何者かがプロバイダを恫喝したらしく、関係記事が不当に消されたうえ、法的根拠もないにもかかわらず当方を「犯罪者」呼ばわりで、プロバイダを通じて「相手は刑事告訴すると言っている」と脅されたうえ、プロバイダからも「プロバイダとしては相手側の主張の真偽は判断できないが、苦情が寄せられたので当該記事を消した」(プロバイダ責任制限法の手続きを完全無視)などと嫌がらせをされる、などの被害を受けた。

 上記の京都教育大・和歌山大学いじめ・浦安事件だけでなく、いじめ事件や教師の「体罰」事件などについて、公開された資料を元に内容をまとめて感想をつけているだけにすぎない当ブログに対しても、「元ネタ」の新聞記事や裁判の判決文などは全く否定できないにもかかわらず、加害者本人や加害者の関係者をほのめかしながら、意に沿わない記事を消すように脅しをかけてきた人物が何人かいた。

 言論の自由や表現の自由は、最大限保障されなければならない。当然のことながら、意に沿わない言論を暴力的に脅すことなど、絶対にあってはならない。

 しかし理想論・原則論を振り回しただけで、自動的に言論や表現の自由が保障されるわけではない。言論の自由・表現の自由を守り育てていくためには、それを妨害する者の策動を許さないような、日々の地道な取り組みが必要になってくる。

 今回の訴訟がスラップ訴訟と認定されなかったのはきわめて残念だが、スラップ訴訟やそれに類する恫喝をできないような雰囲気を、社会的に作っていく必要がある。

(参考)
◎二審も「論文は真実」 経営者の高額賠償請求棄却 東京高裁(しんぶん赤旗 2014/11/13)