「いじめゼロ」の標語、懸念示す意見が出て変更:鳥取

 鳥取県教委がいじめ対策として啓発用に児童・生徒に配布する予定にしていたクリアファイルについて、当初は「いじめゼロ」の標語を盛り込むことが検討されていたものの、教育委員の指摘を受けて別の文面に変更していたことがわかった。

 このクリアファイルは県教委と有識者でつくる「県いじめ問題対策連絡協議会」が企画し、鳥取県内の小学校・中学校・高校の児童・生徒に配布される計画となっている。クリアファイルには標語とともに、国や県のいじめ相談電話の番号やメールアドレスが記載されている。

 クリアファイルに記載する標語については、当初「みんなの力でいじめゼロ」にする素案が出ていた。しかしこれについて、具体的な数値を出すとその数値目標に近づいた人ほど評価され、結果的にいじめが存在してもなかったことにされるのではないかとする懸念が出された。それを受けて文面が変更された。

 いじめをはじめとした学校での事件・事故は、当事者にとっては人生を左右させかねないほどに重大なものであり、あってはならないことである。

 しかしいじめにしても、「体罰」や不登校など他の好ましくないとみなされるような現象でも共通であるが、ない方がいいとはいえども、数値目標を設定してそれを実現したものが評価されるとなると、数値目標を達成するためには実際に困っている児童・生徒の被害訴えを「なかったこと」にして統計上「0」や「前年度比減少」を作る手口が横行することもある。

 数値目標がいじめを隠すという件については、2006年10月20日の衆議院文教科学委員会で、教育学者出身でもある石井郁子衆院議員(当時。日本共産党)の質問の中で指摘されている。これを受けて伊吹文明文部科学大臣(当時)も、そのような現象が起きていることを否定せず、改善を図る趣旨の答弁をおこなっている。

○石井(郁)委員 (前段略)今回は、いじめが起きた、文科省が発表されている数字と、それから現状というのが余りにも乖離している、かけ離れているんじゃないか、これが今大きな問題になっているわけでございますので、この点で伺いたいと思っています。
 例えば、不登校の生徒の数は、福岡の場合、千人当たりに二十・七人なのに対して、いじめの発生件数が〇・三人なんですよ。これはだれが見てもおかしいというわけですけれども、この三輪中学校の校長先生は、ここ数年七、八件のいじめがあったにもかかわらず、報告はしていなかったというわけですね。
 今、メディアなどでも、いじめによる自殺が九九年度以降ゼロということが話題になっている。文科省の統計の発表数字ではゼロなんですよね、いじめの自殺がゼロ。
 このようにして、報告されている数と実態というのが本当に乖離しているという現実、まずこの問題について文科大臣としてのお考えを伺わせていただきます。

○伊吹国務大臣 (前段略)文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という流れの中で、どこかで物事を隠すというのか、外へ出したくないという流れがあって、最終的に文科省へ上がってくるときは、いじめによる自殺がゼロと。自殺の原因は確かに非常に多重的ですから、原因の認定というのは非常に難しかったんだと思いますが、先生が御指摘のように、現在の実態を見ると、余りにも実態離れしている。
 ですから、何度も何度も通達を出しておるんです。例えばいじめについては、教育委員会がいじめと認定できなくても、児童からいじめがあったという訴えがあった場合は数字として出せとか。そういうことを必ずやっておるんですが、それでも、このかばい合いの体質の中でこういうことになっておりますので、昨日もう一度、そこのところをきっちりと、その数字を隠さずに出す。
 私は、先ほど申しましたように、文科省へ行きましたときは、報告、連絡、相談、確認だけはきっちりやれと。隠すなと。失敗はだれでもあるから、隠すなと。それさえやれば、失敗した責任は私がとるからと。ただ、隠した場合はやめさせるぞということは言ってあります。

○石井(郁)委員 やはり数字が正確な実態を反映していないということをお認めになったと思うんですが、何かが隠されているという問題だと思うんですね。これはやはりこのままにしておくわけにいかないということだと思うんですね。
 そこで、私はきょう、いじめや不登校に関する調査が現実にどのように行われているんだろうか、このことでちょっと事例をお示ししたいと思って、資料を用意いたしました。これは十八年度の新潟市の学校評価表というものなんですが、四月に学校が新潟市の教育委員会に提出するという資料のようです。
 これによりますと、一枚目、「取組分野」として「いじめ・不登校の減少」というのがあるんですね。年度当初には、「評価項目」で、いじめ発生件数がゼロ件だ、二つ目には、不登校の件数が十件未満であるということがあって、これがいわば目標に当たるものですけれども、このように、いじめ発生件数をゼロというふうにしないと教育委員会からは突き返されるというんですよ。だから、もうゼロと書いて報告をする。
 それで、「評価基準」として、ここにはA、B、C、Dというふうにありますが、Aだったらゼロ件、Bは一件等々とありますけれども、こんなふうに四段階の評価基準というふうになっているということですね。不登校についても、A、B、C、D、それぞれ十件未満、十二件未満等々というふうに四段階の評価基準になっているわけです。
 いじめについては、年度当初の数値目標がゼロ件だから、九月末と年度末評価も、ゼロ件のAにしないと受け付けないというふうに言われている。だから、ゼロ件のAに丸をつけて提出するというふうになっているわけです。
 文科省はこういう実態というのは把握しているんでしょうか。

○銭谷政府参考人 お尋ねの、児童生徒の問題行動等に関する数値の目標を挙げて取り組んでいる都道府県、政令市につきましては、本年度については私どもちょっとデータは持ち合わせておりません。
 (中略)私ども、件数の多寡にこだわるとか、そういう姿勢でいじめの問題に取り組むわけではもちろんありませんで、昨日緊急に行いました課長会議などにおきましても事例報告がございましたけれども、いじめが一件もないという、本当に実態を把握できなくていじめが一件もないというよりは、仮にいじめが五件あっても、その五件についてこういう取り組みをして、迅速にやったというところの学校の方が本当はいいんだといったような事例報告もございました。ただ、こういうふうに、学校としていろいろ取り組みをやって、いじめの未然防止に努めようということは、これはあり得ることだと思っております。

 見かけの上で「いじめゼロ」にするのではなく、統計上の数値はたとえ跳ね上がったとしても、実態を正確に把握した上で、ひとつひとつ丁寧かつ迅速に解決していける体制を作ることが重要である。

 鳥取県教委の話に戻ると、一度素案で出た「いじめゼロ」の標語に対して、懸念を示す意見が出て修正が加えられたことは、結果的によりよいものになったといえるだろう。

(参考)
◎「いじめゼロ」標語不適切で変更…鳥取(読売新聞 2014/10/22)