教科「徳育」(仮称)の新設を提言:迷走する教育再生会議

 政府の教育再生会議は3月29日、安倍晋三首相も同席のもとで会議を開きました。会議では「規範意識をはぐくむ」として、小中学校に教科「徳育」(仮称)を新設することを提言しました。


 教育再生会議の提言にはあきれました。教育学的な視点では「論外」の一言で済ませてもおかしくありませんが、日本の教育の未来に大きな影響を与える場所でこのような提言が大まじめになされた以上、無視するわけにもいきません。
 現行の小中学校にも「道徳」の時間はあります。しかし現行の道徳は教科の扱いではありませんし、成績評価もおこなっていません。
 一方で「徳育」(仮称)は教科の扱いにするということです。それはすなわちほかの教科と同様に学習内容を評価することにつながります。
 客観的事実や自然法則などと違い、道徳は個人の価値観や思想信条の問題なども含んでいるので、時代や人によっても変わるものです。道徳を評価するということは、特定の価値観を前提としなければ評価できません。評価の方法も必然的に「特定の価値観にあうかどうか」というきわめて恣意的なものになる運命にあり、客観的評価は不可能です。すなわち児童・生徒の内心を規制し、特定の価値観や思想信条を児童・生徒に押しつけようとすることにつながります。
 「徳育」の学習内容、すなわち児童・生徒に教え込まれる価値観は、もしこの教科が実際に導入されてしまった場合は学習指導要領に規定されたものになります。学習指導要領の内容を策定するのは文部科学省の担当部局ですから、すなわち政府にとって都合の良い価値観を一方的に児童・生徒に教え込むという、戦前の教科「修身」の復活のようなことになります。
 また、教育基本法改悪の問題・教員免許更新制の問題などほかの「教育改革」の問題とも相まって、児童・生徒はもちろん教師まで統制することで、教育の荒廃がさらに進む危険性すらあります。
 道徳教育そのものは否定しません。しかし道徳教育については、児童・生徒が自ら主体的に考えて、社会を担う一員として民主主義社会の発展にふさわしい態度をとれるようにしていくことが重要です。一方的に特定の価値観を教え込むという誤った方法の道徳教育は、望ましいことではありません。

「徳育」教科の新設提言=2次報告へ論点整理-再生会議(『時事通信』2007/3/29)
 政府の教育再生会議(野依良治座長)は29日午後、安倍晋三首相も出席して首相官邸で総会と「学校再生」分科会を相次いで開き、5月の第2次報告に向けた中間の論点整理を行った。分科会では規範意識をはぐくむため、小中学校での道徳教育を充実させる必要があるとの認識で一致。正式な教科として「徳育」(仮称)を新設するよう提言した。
 小中学校の道徳の授業は現在、学習指導要領が定める「教科」とはなっていない。「徳育」の新設により、正規の教科書が作成されるほか、数値による成績評価なども行われることになる。道徳教育充実の具体策としては(1)小学生に1週間の自然体験(2)中学生に1週間の社会体験-なども盛り込んだ。