『はだしのゲン』閉架問題、専門家の意見も無視

 島根県松江市教育委員会が、市立学校図書室所蔵の『はだしのゲン』を閉架措置にするよう指示した問題で、松江市教委が図書館学の専門家に意見を聴き、「図書館の自由に基づけば不適切」と指摘されていたことが、8月18日までにわかった。


 この問題は2012年夏、在特会とつながりのある極右が、松江市議会に『はだしのゲン』撤去を求める陳情を出したことに始まる。陳情そのものは2012年12月に市議会で否決されているものの、松江市教委はその間に、有識者や各学校に意見聴取をおこなっていた。
 松江市教育委員会関係者は2012年11月、図書館学を専門とする島根県内の短大講師と面会した。講師は、日本図書館協会が図書館運営の基本を示した「図書館の自由宣言」に基づけば、図書館に資料収集や提供の自由がうたわれていることから、撤去は不適切と指摘したという。
 陳情否決後に松江市教委は、「歴史認識を問題とした陳情とは別の議論。陳情を機に確認した『ゲン』の過激な描写を問題視した」として、「閲覧や貸し出しの全面禁止でなければ、図書館の自由を侵さない」という理屈をつけて、閲覧の制限と閉架措置を各学校に指示した。
 しかし松江市教委の対応は、揚げ足取りで無理やりでたらめな理屈を作り上げ、図書館運営の基本や平和学習を根本から踏みにじる形になっていると感じる。
 閉架措置は通常、保管に細心の注意が必要な貴重書などに対して実施される措置である。また閲覧制限は、明らかな人権侵害とする社会的な合意ができているもの、著作権者や寄贈者の意向などやむを得ない場合に限っておこなわれるものである。いずれもこういう場合に適用されるものではない。
 また『はだしのゲン』では、日本の戦争犯罪を告発した場面が「過激な描写」扱いされていることからも、「過激な描写」として槍玉に挙げることと、歴史認識を問題にすることは一体の問題であり、別個のものとして切り離せるものではない。
 松江市教委は「当初から撤去しない方針で、その論拠を補強するためだった」としている。しかし、明らかに合理的理由に欠ける閉架と閲覧制限は、事実上の撤去と同列に扱われるべきものであり、こんな言い訳は成り立たない。