教科書での自衛隊記述

 5月9日の参議院予算委員会で、憲法改正問題に関してのやりとりがあった。

 日本共産党の小池晃書記局長・参議院議員が、自衛隊と日本国憲法の関係についての質問をおこなった。安倍晋三首相は「主要政党の共産党や憲法学者の7~8割が、自衛隊は違憲といっている。さらに教科書にも、自衛隊が違憲であるという記述がある。自衛隊の子弟たちもこの教科書を使う」「その状況(違憲の状態)をなくしていくことは私たちの世代の歴史的な責任ではないかと考えた」と答弁し、改憲の意向を強調した。

 憲法改正問題そのものについての議論は当ブログとしては踏み込まない。しかしその一方で、安倍首相の答弁は、教科書の記述に対して不正確な印象を与えるのではないかと気になった。

 安倍首相の答弁では、教科書での自衛隊の記述が、違憲と断定された記述一辺倒で記されているかのような印象も受ける。

 改めて中学校社会科公民的分野や、高校「現代社会」「政治・経済」の教科書の記述をチェックしてみると、自衛隊について違憲であると断定した立場で書かれている教科書は、現行の版でも過去の版でも見当たらない。

 合憲や違憲といずれも断定せず、政府見解ではこのようになっているが、違憲という主張もあると軽く触れるにとどめている。違憲説の主張の中身については、いずれの教科書でも深入りしていない。

 中学校教科書については、採択数が多いとされている東京書籍教科書での記述では、以下のようになっている。

東京書籍・中学校社会科公民的分野 「新編 新しい社会 公民」(公民929)

自衛隊と憲法第9条の関係について政府は、主権国家には自衛権があり憲法は「自衛のための必要最小限度の実力」を持つことは禁止していないと説明しています。一方で、自衛隊は憲法第9条の考え方に反しているのではないかという意見もあります。(p.42)

 中学校教科書では、帝国書院や日本文教出版など他社教科書の記述についても、東京書籍と似たような記述となっている。その一方で、育鵬社教科書はやはり異色で、自衛隊については合憲であると読み取れるような前提で、論争はないかのように記載している。

 高校教科書では、最高裁判決では自衛隊の合憲・違憲についてはっきりと判断したことはないという記述も加わる。

清水書院・高校現代社会 「高等学校 新現代社会 新訂版」(現社317)

最高裁が自衛隊の合憲・違憲について確定的な判断をしたことはない。(p.129)

第一学習社・高校政経 「高等学校 改訂版 政治・経済」(政経309)

自衛隊や日米安保条約に関する憲法論争は今も続いており、違憲訴訟も起こされてきた。しかし、最高裁判所は明確な合憲・違憲の判断を示していない。(p.34)

 そもそも安倍内閣のもとで、教科書の記述については、有力な学説や見解などが分かれるものについては政府見解に沿って書くよう求める方向性を強めてきた。そんな中で、自衛隊を違憲と断定する立場で記述した教科書が検定を通るとは、考えられないことになっている。