熊本「体罰」訴訟、最高裁は「体罰」認めず請求棄却

 熊本県本渡市(現・天草市)の市立小学校で2002年11月、「臨時教員が当時小学2年生の男子児童の胸ぐらをつかむなどしてPTSDを発症させた」として被害児童側が提訴していた訴訟で、最高裁は4月28日、「体罰」を認定した二審福岡高裁判決を破棄し、児童側の請求を棄却する逆転判決を出しました。

 この訴訟では、教員の行為が「体罰」に該当するかどうかが主な争点となっていました。一審熊本地裁は教員の行為を「体罰」と認定した上でPTSDも認定し賠償を命じる判決を出しました。二審福岡高裁では教員の「体罰」を認定する一方で、PTSDについては症状が回復したなどとして認めず、賠償額を減額しました。天草市は二審福岡高裁判決を不服として最高裁に上告していました。
 最高裁判決は以下のように指摘し、事実関係の認定は福岡高裁判決を踏襲しながらも、事件を「体罰」と判断した部分については取り消しています。

前記事実関係(注:福岡高裁で認定された事実関係)によれば,被上告人は,休み時間に,だだをこねる他の児童をなだめていたAの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどしていたが,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとしたAのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。そこで,Aは,被上告人を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(本件行為)というのである。そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。

 さて、「目的、態様、継続時間等から判断」して、感情的になって胸ぐらをつかむという態様を持った行為が、合理的な目的を持った教育的指導の範囲内なのでしょうか。今回の行為は「体罰」であり違法な暴行であると結論付ける方が適切であるのではないかと思え、最高裁の結論には疑問を持ちます。
 今回の判決が極端に一般化され、「教師が児童・生徒に感情的な暴力をふるっても教育的指導であり、『体罰』でもなければ暴行や虐待でもない」と解釈されるのならば、教師の暴力はやりたい放題になり、教育現場に悪影響を与えることにもつながりかねません。
 また福岡高裁判決では原告の親について「モンスターペアレント」といわんばかりの認定もされ、最高裁もその部分を踏襲していることも加味すると、今回の判決をきっかけに「教師の暴力がやりたい放題になる」「暴力被害を訴えることすら『モンスターペアレント』かのように異常視される」という風潮が強化されることにつながることもありえるのではないか、という点が気にかかります。
 一方で判決文は、「この事件について、該当教師の行為を『体罰』と認定しなかったということであり、一般的な基準を示しているわけではない」という解釈も可能です。
 今回の最高裁判決はいろいろな意味で教育現場に影響を与え、教育史上に残る判決となると思われます。
(判決文)※いずれも裁判所ウェブサイト内、pdfファイル