政治の教育介入で何が起きたか:大阪市の事例より

 自民党がサイトで「学校教育における政治的中立性についての実態調査」をおこない、「密告サイト」などの批判が巻き起こった。調査は終了したものの、提供されたデータの一部については、警察に提供する意向も示している。

政治的中立性の実態調査は監視・密告奨励につながり授業実践を萎縮
 自民党が7月7日頃、公式ウェブサイトに「学校教育における政治的中立性についての実態調査」とするアンケートフォームを掲載した。一度は削除した...

 自民党の調査では、安保関連法廃止など政府与党の意向に反するものを「政治的中立性」から逸脱する実例としてあげていた。このような、時の政治権力・行政にとって不都合とみなしたものを「逸脱」と決めつけて教育介入する状況が何を生み出すか。

 大阪府・大阪市では、橋下・維新政治のもとで教育現場への介入が強まり、教職員へ攻撃が強まる形になった。大阪市での状況について、『しんぶん赤旗』2016年8月16日付『自民党“密告サイト”問題 大阪市にみる教育介入の影響』がリポートしている。

 大阪市では、当時の大阪市長・橋下徹によって、数々の教育介入がおこなわれた。橋下は現時点では政治の表舞台からは去っているものの、維新の法律顧問やテレビコメンテーターとして政治に関する発言を繰り返し、影響力を保とうとしていることがうかがわれる。また維新の後継市長や議員も、橋下路線を継承する形で市政に影響を及ぼしている。

 2012年に、後に違法調査と断罪された市職員への「思想調査アンケート」が実施されたが、教育部局については市教委が拒否し実施を未然に防いだ。また橋下・維新によって、行政が教育現場を縛るいわゆる教育基本条例として「教育行政基本条例」「学校活性化条例」や、行政部局なども含めた「職員の政治的行為の制限に関する条例」など数々の条例が制定された。

 また「育成」の観点がなく「評価」が賃金に連動するような、「教職員の評価・育成システム」が導入された。

 それらの結果、教職員同士の協力関係が阻害されて重苦しい空気と多忙化が蔓延し、教員志願者が大阪市の教員採用試験を受験しない・合格しても大阪市では勤務しない・現職教員も機会と条件があれば他県に逃げる状態となり、教職員不足も深刻化している。大阪市立の高校では、全教職員に対する非正規教職員の割合が2割以上となっているという。

 また「若い教員の中には、選挙で投票することは中立性に反すると考えている人が少なからずいる」という報告も多く聞かれるようになったという。

 このリポート記事によると、政治による教育介入によって、学校現場の混乱を招き、選挙での投票すら「中立的ではない」と誤った内容を刷り込まれるまでに追い込まれている状態となっている。これでは意欲ある教員を潰し、適当な人間しか教員になれないということになってしまう。教員の質を大きく低下させている実態が浮き彫りになっている。

 大阪市立高等学校教職員組合では、主権者教育の取り組みを強め、教育実践を地道に追求していくことも紹介されている。同組合などは2016年4月、大阪市教委高校教育課と主権者教育について懇談し、「教育の中立を犯すのは権力を持っている人たちであり、介入をしてくる場合には教育の自主性を守るためにともに取り組む」とする内容を確認したという。

 主権者教育の充実自体は、政府・文科省もその方向の主張をおこなっている。その一方で、政権や特定の政治勢力にとって意に沿わないから「中立的ではない」と決めつけて介入されるということは、主権者教育を大きく萎縮・変質させる危険性にもつながる。

 大阪だけではなく全国的に、「政治的」とみなされた教育実践に圧力をかけられた例も報告されている。圧力の主体は特定の政治勢力の組織的行動だけにかぎらず、「一市民」を名乗ってそれらと同調する立場でのクレーム電話などの形での圧力もある。

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 これらに対抗するためには、教職員らが学校での日々の教育実践を地道に追求するとともに、また必要な場合にはおかしな圧力に対して声を上げていけるようにしていく必要があるといえる。