政治的中立性の実態調査は監視・密告奨励につながり授業実践を萎縮

 自民党が7月7日頃、公式ウェブサイトに「学校教育における政治的中立性についての実態調査」とするアンケートフォームを掲載した。一度は削除したものの当該ページの記述を一部変更して復帰させ、調査そのものは継続している。このことに対して大きな批判が広がっている。

自民党「学校教育における政治的中立性についての実態調査を実施」?
 自民党が7月7日、ウェブサイト上で「学校教育における政治的中立性についての実態調査を実施」とするアンケートフォームを開設し、政治的中立から...

 当初の文面では、「子供たちを戦場に送るな」が政治的中立性を逸脱した例として例示された。ページそのものの一時削除を経て、例示の内容を「安保法に反対する」に変更しで再掲載し、その後さらに例示を削除した形で文面が変更されてフォームでの事例募集が続いている。

 しかし調査をおこなうこと自体が、いわば密告を奨励するような形になり、「いつ難癖をつけられるかわからない」と教員が萎縮して、主権者教育や教育実践そのものを萎縮させることにつながる。

 特定の思想信条を一方的に押し付けるようなことがあってはならないのはいうまでもない。しかしその一方で、教員は社会に関する内容に一切触れてはいけないというわけでもない。

 『しんぶん赤旗』2016年7月18日付「主張」が、政治教育・主権者教育のあり方について丁寧にまとめているので紹介する。

 学校や個々の教師は党派的な教育をしてはならないという意味で、「教育の政治的中立性」は大切です。

(中略)…意見の対立を前提とする現実政治を授業で扱う場合、教師が自分の見解を、押し付けない形で述べることは、海外では教授方法の一つとして確立されています。政治について自主的に思考し、自由に意見を表明し、他人の意見に偏見なく耳を傾ける市民を育てることこそ、主権者教育の眼目の一つです。教師が自由にものを言えない教室で、どうして自由な市民が育つでしょうか。

 教師が教室で自由に意見を言えない状態は、「政治的中立性」の維持どころか、政権党への批判を認めず政権党の意見で教育を染め上げようとする点で、「政治的中立性」の最悪の破壊です。

 補足説明は特にいらないと思われる。自民党の調査は、自民党にとって気に入らないとみなした意見や教育実践を「偏向教育」と決めつけて槍玉に挙げる危険性があるものではないか。

 いや、実際に教育実践に対する政治介入といえるような事件は、実際に発生している。介入の主体は自民党という特定の集団の組織的行動だけとは限らず、「一市民」を名乗る人物からクレームがあったことを受けての「自主規制」強要という形での介入も多く発生している。

 2016年7月には、ある中学校教師が「参院選で与党が3分の2を取れば生徒は戦争に行くかもしれない」と授業中に話したことが、保護者を名乗るものから教育委員会に通報が入って問題視されたと、一部で報じられた。

 山口県議会では2015年、ある県立高校で実施された、安保法を題材にしてグループ討論や模擬投票を取り入れた社会科授業に対して、自民党県議が問題視する議会質問をおこない、教育委員会関係者が「不適切」と言及する事件が起きた。

 宮城県のある高校では2015年、文化祭で社会科学部が安保法制について生徒へのアンケートを実施したうえで結果をまとめて展示発表をおこなおうとしたところ、外部からクレームがあり中止に追い込まれた事例も発生した。

 自民党の「調査」によって、政権党の意向に沿わないものはクレームを付けて当然という風潮が「市民」の間にでき、不当な監視や密告がおこなわれ、現場の教育実践を萎縮させる風潮を強めるおそれがあるのではないか。

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