育鵬社と「つくる会」:似ているが別物です

 2016年7月31日投開票の東京都知事選挙では小池百合子氏が当選した。「新しい歴史教科書をつくる会」の推薦を受け、また極右的な政策も目立つので、今後の動向を慎重に注視していく必要がある。

 これに関して「新しい歴史教科書をつくる会」が、選挙演説について指摘と苦言を。

 社会学者の上野千鶴子氏が知事選挙期間中、小池百合子氏の政策を危惧し、対立候補として立候補した鳥越俊太郎氏の応援演説にたったとのこと。その際に事実誤認の発言があったと指摘されている。

 たしかに上野氏は、文字おこしの「教育委員会は保守化し、」ではなく「教育委員会は保守化したまま」とややニュアンスが異なるものの、動画の中でおおむねそのような発言をおこなっている。これは、いろいろな問題がごっちゃになって、事実誤認で不正確ということになってしまっている。

 別に「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を支持する気はないし、彼らの主張は危険だと感じているが、客観的事実の問題という限定した意味では「つくる会」の指摘のほうが正確ということになるという皮肉なことになっている。

 「教科書問題は、たとえ別分野では最先端とされる知識人ですら、また極右勢力に批判的な人ですら、詳しくない人にとっては事実関係を多々取り違えてごっちゃになっている認識なのか」という印象を受け、正確な認識を広げるのは重要だと感じた。

 歴史修正主義的な極右教科書の採択活動が活発化した2000代前半には、「新しい歴史教科書をつくる会」が極右教科書の一大勢力となり、「つくる会」が発行した扶桑社版中学校社会科歴史・公民教科書が2005年教科書採択で大騒ぎになったことから、「つくる会」が極右教科書の代名詞となっていた経緯はある。

 しかしその後「つくる会」は路線対立で分裂し、当時の反主流派だった勢力が独立して「日本教育再生機構」をつくり育鵬社から教科書を出している。日本教育再生機構・育鵬社のバックには「日本会議」がいる。育鵬社・日本教育再生機構・日本会議が極右政治家とつながり、今や一大勢力となっている。

 一方で「つくる会」の当時の主流派も引き続き自由社から教科書を発行しているが、2011年および2015年教科書採択の前後からは育鵬社・日本教育再生機構が一大勢力となったため、「つくる会」・自由社の勢力は大幅に縮小している。

 「つくる会」と育鵬社勢力は、極右教科書の大きな枠組みでは共通でも、発行主体としては全く別物となっている。2000年代の時点なら「極右教科書=つくる会系」という呼び方でも特に差し支えはなかった。しかし「つくる会」系と育鵬社・日本教育再生機構系の分裂という状況の変化を把握せず、2000年代の感覚のまま2010年代の現時点で「つくる会(系)」と一括りにしてしまうと、育鵬社・日本教育再生機構・日本会議系が主力勢力でもあるにも関わらず「つくる会」を代名詞扱いすることで、結果的に事実認識が不正確になってしまう。育鵬社やその背景にある日本教育再生機構や日本会議の存在が隠れることで、育鵬社系勢力の策動をしやすくすることに間接的に手を貸してしまう危険性もある。

 また小池百合子氏が2016年東京都知事選挙にあたって「新しい歴史教科書をつくる会」の推薦を受けたのは事実だが、すでに前都政より東京都教育委員会が保守化というか反動化し、教科書問題については都立の中高一貫校や特別支援学校で極右教科書が採択されてきた。2015年には育鵬社の中学校社会科歴史・公民教科書が採択されている。また高校教科書でも、実教出版日本史教科書を採択しないよう求める通知を出してきた。

 すでに育鵬社が採択されているという意味でも、「つくる会」は育鵬社勢力とは別物という意味でも、不正確になってしまう。

 育鵬社・日本教育再生機構にしても「つくる会」・自由社にしても、教科書の内容やその背景となる主張は学術的にも不正確であり、また極めて危険な意図をはらむ主張である。しかし問題点を指摘する側まで不正確な認識のもとで動くようならば、これらの教科書の問題点が幅広い市民に伝わらないことになってしまう。正確な事実認識を広げることが重要になる。

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